意地っ張りな恋の話


頭から突撃するように目の前の胸に飛び込むと、慌てた声を上げながらもしっかり受け止めてくれる。

この先もずっと、この安心感が自分のそばにあるんだと思うと言いようのない幸福感に包まれた。


「うう〜〜………絢くんん…」

「なんだよ」

「絢くんんん」

「だから何だよ」


くっ、と笑いながらあたしの頭を撫でるその手が気持ちよくて、目の前の広い胸に頭を擦り付けた。

回した腕に力を込めると、撫でていた手がピタリと止まった。


もっと撫でてほしくて文句を言おうと顔を上げると、何故か真顔でこちらを見つめる絢くんの顔があった。

真顔でもカッコいいって本当どういうことなの?


「絢くん?」

「……うん」


曖昧に返事をしながらなぜかひょいとあたしを抱き上げた絢くん。

キョトンとして彼の顔を見つめると、相変わらず真顔のまま。



……まさか。



「ちょっ…と、あたしまだ帰ってきたばっかりなんだけど」

「うん」

「歯磨きとか、お風呂とかなんも」

「うん」

「せめてコート脱ぎたいから離して、」


うん、うん、ひたすらに空返事をする絢くん。

ああ、これはもうダメだ。



どこか熱を持った彼の目を見て、あたしは大人しく白旗を上げたのだった。


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