意地っ張りな恋の話
とまあそんなこんなで今に至る。
謝った後、絢くんは以前よりも優しくなったような気がする。
またあのあらぬ感情が湧き上がってきそうになって、慌てて絢くんから目を逸らした。
「おねーさん」
タイミングよくお客さんに声をかけられて、返事をしながら向かう。
「はーい、お呼びでしょうか…」
「おねーさん、俺と連絡先交換してくんない?」
「…はい?」
頬杖をついてあたしを見上げるその人は、もちろん全く知らない人。
ゆるりとウェーブを描く黒髪が気だるげに見える、やたらと顔の小さい男だった。
「顔ちっさ…」
「え?なんて?」
「や、なんでもないです。じゃ、失礼します」
「いやいや話終わってないから、
おねーさん名前は?」
「…田中です」
「本名は?」
「…………小松です」
こまつさん、こまつさんね。
ふーん、なんて独り言を言いながらにやりと笑ったその顔に、何故か少しだけ寒気がした。
「……何してんだよ」
低い声にびくりとして振り向くと、
威嚇するように眉を寄せた絢くんが立っていた。
やばい、何サボってんだって怒られる。