意地っ張りな恋の話
あたしのことはまあいいんだ。
なんであの子の名前、知ってたんだろう。
まさか絢くんって、
「絢くんってまさか…インスタグラマー?」
「あ?んなわけねぇだろなんだよいきなり」
バイト中、ふと思いついて絢くんに聞いてみた。
今日は比較的お客さんが少ない。
いつもなら混み合うこの時間に、カップルが一組だけしか席に座っていない。
おしぼりを補充しながらすぐ横に立っている絢くんの横顔を見つめる。
すっと通った鼻筋とくりっと上がったまつ毛がまるでフランス人形みたいだ。
傷ひとつない肌は思春期の男の子とは思えないくらい綺麗。
「……なあ、なんでそんなじっと見てんの」
「え?!!見てない見てない、ほら、お客さん少ないなーと思ってホール見てたの!」
ムキになって否定するあたしはどう見ても怪しい奴で、
そんな訳の分からない言い訳で絢くんが納得するはずもなく。
「俺の顔になんかついてる?」
「いや、そうじゃ…」
「ん、取って」
そう言って瞼を伏せたこちらに屈んだ絢くん。
この体勢のせいで、息がかかりそうな距離に絢くんの顔が来てしまった。
いや、これはなんというか、
心臓に悪い。