【完】ひとつ屋根の下、気がつけばあなたがいた

系列店の打ち合わせで今日は伊織の家に来ていた。 と、いうか呼び出された。

元々外に出たり本社に行ったりするのは好きじゃないタイプだったが、結婚して真凛さんに出会ってから伊織は本当に変わった。

こいつが誰かを好きになったり、嫉妬したり、デレデレした姿を見せるなんて想像つかなかった。

しかし伊織の妻になった真凛さんという人は、良く出来た女性なのだ。
控えめだが芯が強く、優しく気高い。
あの桃菜と長年友達をやってこれたという事実が、人間が出来ているという証拠だ。

「おい、碧人…何を真凜と楽しそうに喋ってやがる」

「ただ世間話してるだけだろう?これだから心の狭い男は嫌だなあ。
ねぇ?真凛さん」

「ええ、そうですね」

彼女がふふっと花のように笑う。 伊織は不機嫌そうにへそを曲げる。
この雰囲気嫌いではない。

伊織と真凛さんはきっと相性がいいのだろう。  これが俺と真凛さんだったら、互いに気を遣い過ぎて疲れてしまうだろう。

そう思えば人の縁というのは不思議な物で、自分の心にぴったしと当て嵌まる人を見つけるのはとても難しい。

二人のやり取りを聞いていたら、自然と笑みがこみ上げて来た。 そんな俺に真凛さんは申し訳なさそうに訊ねた。
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