【完】ひとつ屋根の下、気がつけばあなたがいた
「どうしたの?」
ビー玉のような丸い瞳をジッとこちらへ向ける。 それは純粋無垢な瞳である。
それにしても珍しい。藍から私の方へ来る事は滅多にないのに。
「桃菜ちゃん、ぬいぐるみどうもありがとう」
少しはにかみながら、恥ずかしそうに小さな声で言った。
それだけ言うと、くるりと体を背けて茶の間の皆の所へ走って行ってしまう。
「……全然いいのよ。ぬいぐるみくらい…」
自分が自分じゃないみたいに変な気持ちになる。
私はどちらかといえば母性のないタイプの人間だと思っていた。 小さな子供や赤ん坊を見て可愛いと思った事は一度もない。
我儘で自己中で自分の思った事を素直に口に出す生き物は、どちらかといえば苦手だった。
最初に小早川家の三姉妹に会った時も、最悪だと思ったものだ。
でも何故だろう。今は違う気持ち。
いつの間にか、生意気な長女も、お調子者の次女も、そして何を考えているか分からない三女も
全然嫌いではなかったのだ。それどころか湧き上がるこの初恋に似たような胸のときめきは、初めて感じる弱き者への愛しさだったのだ。