【完】ひとつ屋根の下、気がつけばあなたがいた
こういう態度が思わせぶりだと周りから言われるのかもしれない。
しかし長年培ってきた性分というのは余り変わらない様だ。
バックヤードで瀬能さんと連絡先を交換しているのを梓さんに見られていたのは、後になって知った事だ。
その日はラストまでシフトが入っていて、店が閉まった後裏で売り上げの計算をしていた。
今残っているのは社員で私と梓さんの二人きりだった。
事務仕事は案外嫌いではない。と、いうのも元いた職場では朝から晩まで事務の仕事をしていた。
あの頃は散々仕事が出来ないと陰口を叩かれていたけれど、今はその経験があって良かったと思える。
梓さんがカフェの掃除をしている間に事務所で雑務をこなしていると、そこに突如悪魔はやって来たのだ。
「お疲れ様」
「はぁーい、お疲れ様でーす。 …って何だ碧人さんかあ。高い声出して損した」
いつもの癖で愛嬌たっぷりな笑みを浮かべて振り向くと、そこにはスーツ姿の碧人さんが立っていた。
笑顔の無駄遣いをしてしまった。