可愛いキミは、僕だけの××
「待って、まだ話は終わってない」
せんぱいの声が耳元で聞こえた。
荻野先輩の男らしい低い声とはまた違う、
王子様を連想させるような高めのかっこいい声。
吐息が耳朶に触れて、ビクッと体が跳ねた。
っ、耳元で喋るのはズルい!
私以外の女子だったら絶対腰が砕けてたって!!
―――キーンコーンカーン
いいタイミングで、5時間目の授業の予鈴が鳴る。
せんぱいの手が離れたのを見て、
「失礼します!!」
扉を開け廊下へと一歩を踏み出す。
「……また今度、四葉さん」
背後から声が聞こえたが、振り返る余裕などなく走り去った。
今の時間はなんだったの?
猛ダッシュをしながらも、頭の中はせんぱいのことでいっぱい。
あんなに好きな人を近くに感じたのも、話せたのも、全部夢みたいだよ。
未だに夢見心地の気分で、廊下を走っている。
でも……あの体温も、息遣いも、声も、全部現実だよね。
すごく嬉しくて、胸がいっぱいだ。
なぜか湧き出てくる涙をこらえながら、教室へ向かった。
あれ?そういえば、名前いつ言ったっけ?