恋愛成就の捧げ物

 だからこそがっかりした。

 現実を突きつけられるような感覚に喪失感が合わさって。
 でも落ち込んでメソメソしたところで、武藤君が私に関心を持つはずは無いんだって言い聞かせてたら、気付けばここに向かって駆けていた。

 彼は別に、私を見てた訳じゃない。
 
 ただ武藤君の視界に私がたまたまいただけの話。私がいつも見てるから合った、それだけの事に気付きもしないで……
「武藤君は私の事なんて、もしかしたら名前も知らないかもしれないよお」

「いや、同じ中学でそれは無いと思うけど? ああもう、泣くなよ!」
 ぐすっと鼻を鳴らせば、男の人は躊躇いもなく私の髪ををがしがしと乱した。
「ちょっ、何すんのよ!」
「え、いや……慰めてるんだけど……?」
 お互いの瞳が各々の驚いた顔を写し合う。

「そうなの? ガサツだなあ……お……兄さん?」
「──え、何その言い方。お前の目には俺がいくつに写っているんだ?」
「……」
 年上だとは思っているけど、どれくらいかまでは……袴姿なせいか余計に分かりにくいし。
「あーと……二十四くらい?」
「……おい。……ちげーし、俺まだ二十一だし」
「……」
 実は見た目は同じ年くらいかと思ったけど、子供扱いしてるみたいで嫌がるかと思ったから。
 気を遣ったつもりだったんだけど、逆に傷つけてしまったらしい。年齢て難しい……
 てかやっぱそんなに年離れてなかったな。なーんだ。

「ご、ごめん! 二十一に見えるよ! 大丈夫!」
「本当か〜? 適当に言ってるんじゃないだろうな」
「えーと、だってそんな年齢の知り合いなんていなくって。お姉ちゃん二十九だし。お姉ちゃんより若くて社会人かなって思ったら、そんなもんかなって思ったの!」
「なんだよ、結局当てずっぽうじゃないか。……まあいいけど」

「? でも、二十一じゃ神主さんじゃないの?」
「んなわけ無いだろ。バイトだよ、ここの息子だけど。普段は大学生」
「バイト〜? なあんだ」
 急に存在を身近に感じてほっと息を吐き出す。私のそんな様子を見て、男の人はふっと笑うような息を吐いてから、爆ぜる火に目を向けた。

「……五年も黙って片思いしていたのに、頑張ってちゃんと伝えようとしたのは偉いよ」
 ぽつりと呟いた男の人の言葉に、ぎゅっと胸が縮こまる。
「うん。私ね、ここで勇気を貰ったんだ……」
「……そうなんだ」
 だから言おうと思えたんだけど。

 何故か顔を赤らめる男の人に首を傾げていると、急にぶっと吹き出した。……笑いを堪えていたらしい。
「それなのに苦情って酷くね?」
「そ、それはだって、神様関係ないし!」
 今度はこっちが赤くなる番だった。



「……あのさ、神様にも優先順位があるんだよ。許してやって」
 急にそんな事を言い出すのだから驚いてしまう。
「ここの神様はそんな、参拝者に優劣なんてつけるの?」
「……多分ね」

 煙に巻かれ、こちらを見て笑う姿を見てると何だか物怪に化かされているような錯覚を覚えてしまう。

「毎日お参りをしてくれる人の願いをさ、先に聞いたみたいだな」
 成る程、それは考えていなかった。
「そっか、もしかして仲村さん。日参してたのかあ……」
「誰よそれ。いや、知らんけど」
「だから武藤君の告白に成功した……って何よ、あなたが言ったんでしょう?」
 
 ぶんと腕を振り上げれば男の人は、くくっと笑いを噛み殺した。

「舞花の制服はU高だったよな」
「え、何で知ってるの? 変態!」
「……おい落ち着け、俺も卒業生だ」
「ああー」
 振り上げた拳を下ろし、改めて意外とよろしいお顔を見つめる。
 とはいえ三歳上だし見覚えは無い、かなあ?
 こんな意地悪な笑い方する人、知り合いにいないものね。
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