恋愛成就の捧げ物
まあ実際は挨拶どころか文句つけにくるような荒みっぷりで、描いていた感動の再会では無かったけれど。
でも、また会ったから……
「……卒業式に告白してみようかな」
おや。
「──ふうん、頑張れば?」
なら時間はあとひと月も無いじゃないか。
焚き火を睨みながら葛藤する舞花に激励を送っておく。だって未練なんて残して欲しく無いから。
「ねえ、そんな言い方! なんかアドバイスとか無いの?」
「……さっさと玉砕して次の恋を見つけろ」
「私の五年をそんな簡単に済ませないで!」
「まあ確かに、長いよなあ……」
それだけの一途なこいつの思いが、他の男に向けられるってのは、当たり前だけど面白くない。
でもそれ以上の長い時間を、今後舞花と一緒に過ごす事を想像すると……ぶわりと肌が泡立った。
「舞花」
「ん? あー、そうだ。お兄さんの名前教えてよ。呼びにくい」
何の気なしに口にしてくる、舞花の台詞に内心びびる。舞花が俺の名前を呼んでくれたら、嬉しい。
「実常……」
「……え、きつね?」
「何でだよ! み、つ、ね!」
「ああ、実常神社の息子さんだもんねえ」
「そ、俺は実常 佑希」
「勇気?」
「……多分字が違う」
ぱちくりと瞬く舞花にちょっと期待してしまう。
けどこいつ、面白いくらい「武藤君」しか見てなかったからなあ。加えて夜で暗かったし、俺の事なんて覚えちゃいないだろう。ちょっと切ない。
「ふうん、そっかー。よろしく佑希さん」
それでもって、あっさりと敷居を跨いでくる舞花に頭を抱えそうになる。
俺ってほんと何の意識もされてないんだなあ……だってお前、武藤君とやらの名前を呼ぶとしたら、絶対に躊躇うだろう。
「よし。俺も祈願する事が出来たから、毎日参拝するわ」
「へえー、何何? 気になるー」
「……じゃあ今度絵馬見れば?」
そう言うと舞花はむうっと頬を膨らませた。
「駄目だよ、絵馬は人に見せると願いが叶わないんだから」
「……」
罪悪感が少しだけ。
「まあ見せようとしなきゃいいんだろうけど。でも俺は大丈夫な気がする」
「何で?」
目を丸くする舞花にニヤリと口元を歪ませた。
「多分俺が、神様の優遇者だから」
「わっ、それって何か狡くない?」
今まで家を継ぐなんて気乗りしなかったけど。
「いーの」
生涯の伴侶を俺にくれるなら、仕えるのもやぶさかじゃない、なんて──
親父が聞いたら怒りそうな言い方で頼んでみる。
「それと引き換えに俺の将来はたった今、神様に全部捧げられたんだから」
「ええー?」
疑問と不満が合わさったような声を上げる舞花に意地悪く笑ってやる。
そうしたらさ、恋愛成就はしてたんだって、いつかこいつに教えてやろう。