嘘カノでも幸せになれますか
第1話 出会い

あれ? 無い! お財布どこだろう。思い出せ。考えろ、私。

お昼休みにジュースを買ったでしょ。その後、どこにお財布仕舞ったっけ?

いつもならカバンに入れるのに。

どうして無いの?

あっ! そうだ! ジュースを買って教室へ戻った時、担任に呼ばれていたことを思い出して急いで職員室へ向かったんだ。

その時、カバンに仕舞う時間が無くてお財布を机の中に押し込んだっけ。

ああーーっ。机に入れたままにして帰って来ちゃった。

私は頭を抱えて駅の改札脇にある切符売り場の前で固まっていた。

学校まで戻るしかないかぁ。駅から学校まで歩いて15分。

今から往復すると、もうピアノ教室には間に合わないな。

週に一度通っているピアノ教室が私は大好きで、楽しみにしていたのに。

先生のご自宅の一室でピアノを教えてもらうんだけど、レッスンの後は必ずケーキやお菓子を出してくれるの。

半分はそれが目当てで幼い頃から通い続けているのもあるんだけどね。

先生は普段とても優しいけど、遅刻に対しては厳しくて、遅刻するなら休んでくださいって言う人だから、今日は行けないな。

私は今日弾くはずだった曲の楽譜を見ながら小さくため息をついた。

せっかく今日のために沢山練習したのに。

先生に聴いてもらえなくて悔しいなぁ。

そう考えると少し涙目になって。

でも落ち込んでいてもしょうがない。

お財布を取ってこないと家にも帰れないんだから。

私は駅を背にして学校への道を足取り重く引き返した。
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