嘘カノでも幸せになれますか
泣いちゃだめ。我慢して、涙。
私はふぅーっと長い息を吐いて、涙がこぼれないように空を見上げた。
「ん? ユズ、なに言ってんの? 明日から先輩と後輩に戻るって、何?」
「学校で会うことがあったら、時々はお話してくださいね、暖先輩」
「は? 暖先輩ってなんだよ。それに話し方、おかしくね? なんで急に敬語なんだよ。なぁ、ユズ」
目から涙がこぼれた瞬間、私が帰る方面へ行く電車の発車のベルが鳴った。
「わっ、私。もう帰ります。さよなら、暖先輩」
ベンチから勢いよく立って、閉まり始めたドアに滑り込んだ。
私はドアの背中越しにいるダンのことを振り返って見る勇気はなかった。
私が急に電車に飛び乗ったあと、ダンがどうしていたのか。
どんな顔で私を見送ったのか。私には知る由もなかった。
こんな風に逃げてしまって、ごめんなさい、ダン。
発車した電車の中で、泣いた。
誰に何を思われようと関係ない。
私は声を殺して泣いた。