嘘カノでも幸せになれますか
「ここがいつも使ってるスタジオだから。さ、入って」
暖先輩が一枚目の扉を開けるとドラムとベースがリズムを刻んでいる音が聞こえた。
二枚目の扉を開けた瞬間、そのリズム音が大音量で耳に入ってきて、思わず耳を塞ぐ。
「ストーープ! 連れてきたぞ、助っ人キーボーディスト」
暖先輩のストップのジェスチャーに反応して、ドラムとベースの音が止み、スタジオがとても静かになった。
「二人とも、紹介するな。こちら俺の一学年下の本多柚葉さん。ユズでいいから」
急に私のことをユズと紹介されてオドオドしていると、ベースを弾いていた男の人が、
「おお、助かるよキーボード。俺はベースのタクミ。タクって呼んで」
「で、こっちのドラマーがアヤ。女だけどパワフルなドラムを叩くんだ。かっこいいんだぞ」
ドラマーの女の人の紹介は暖先輩がしてくれて、私はその彼女にお辞儀をした。
「アヤです。よろしくね。女の子で嬉しいよ。男ばっかりだとむさ苦しくてさ。あははは」
「で、俺がギターを担当してるダンだから。覚えとけよ」
「暖先輩のことは知ってますから。忘れませんって」
「あー、呼び方はダンにしてくれる? 暖先輩って呼ぶのはバンドに合わねぇ」
いきなり暖先輩のことをダンって呼ぶなんて。そんなことできないし。