嘘カノでも幸せになれますか

「ははっ、そんなんいいよ。で、どの駅に帰るの?」

「はい。えっと・・・、桜の丘です。」

「了解。駅を降りたらバスとか使うの?」

「いえ。歩いて帰ります。えっ? バス代も心配してくれるんですか」

「だってお金無いんでしょ? 千円渡しとくから。もうお財布忘れんなよ。じゃ、俺の電車もう来るから。気を付けて帰りな」

その先輩は私の手に千円札を握らせると、改札口を通り駅の中へ入った。

その姿を見送っているとその先輩が私の方へ向き直り、改札越しに

「ねぇ、さっきの楽譜。何をやってるの?」

そんな質問をしてきた。

「え? あっ。ピアノです。ピアノを習っています」

「ふーん。じゃ楽譜読めるんだよね?」

「はい、一応は」

「そっか。わかった、ありがとう。じゃあな」

それだけ言うと先輩は駅の中へと消えて行った。

ホームに入ってきた電車は私の乗る電車とは反対方面へ行く電車。

先輩がその電車に乗り込むのを見送って。

「あっ! 名前・・・。クラスも。私、聞いていないじゃん」

これじゃ借りたお金を返せないよ。もう、私のバカ!

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