【短編】君のすべて

居酒屋を出て夜道を歩く。


11月になってから
めっきり寒さを感じるようになり
夜になると肌寒い。


腕を擦りながら歩く私に
ふわっと優しく上着がかけられる。


慎也のスーツの上着。



『えっ?!
いいよ…
慎也、風邪引いちゃうよ?』



「最後ぐらい俺のしたいようにさせろ」



笑ってサラッという慎也に
胸が痛んだ。



最後って何?



「俺はずっと花澄が好きだった。
花澄に男がいても
男を信じられなくて
男を適当にあしらってる時も
いつもおまえだけを見てきた。」



『………』



「花澄が今も男を信じられないのもわかってる。
だけど、もう花澄の隣で
気持ちがない振りをするのが苦しい。
俺にとって…もう限界だ。」



『慎也…』



「わかってる。
ただ言いたかっただけだから。
ごめんとかも聞きたくねぇから…」



目頭が熱くなって涙が零れる。


何で…泣いてる?



「泣くなよ。
泣いても…もう拭ってやれない。
幸せになれよな。」



…本当に終わりなの?



「それやるわ。
花澄の香りが残ってると
いつまでも気持ちも残るしな。
じゃぁな。」



…慎也の背中が遠ざかって行く。



いつもは“またな"なのに…



じゃぁな‥‥


本当に終わりなの?



慎也のスーツを抱きしめる。



慎也の香りがする…。



マルボロのブラックメンソールの香り…。



涙が止まらない。



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