【新装版】BAD BOYS
「え、はなびちゃん帰るの?
せっかくだから、ご飯食べて行って」
「いえ。この後、すこし寄り道するので」
「そっか……それ、じゃあ。
危ないから、遅い時間まで出歩かないようにしてね」
残念がる千秋さんに、「また来ます」と手を振る。
3人の暮らすマンションの一室の前で、手を振ってくるのいちゃんにも同じように振り返し、踵を返してマンションを出たあと。
特に予定もないんだけど、とひとり苦笑して。
スマホを取り出し、連絡先にずらっと並んだ『花舞ゆ』メンバーの名前をじっくりと眺める。それから。
「ケリつけてからじゃないと、だめ、よね……」
誰かにコールしようかと思ったけれど、気を引き締めて諦める。
そのまま帰ろうと足を進めようとすれば、耳に届いたのは「あれ?」という声で。
「ノアさんの、カノジョさんだ」
「……あ、」
「こんなところでどうしたの?
……ああ、そっか、ノアさんこのへんに住んでたよね」
会ってたんだ?と聞かれて、首を横に振る。
紫色のゆるい髪は沈む前の夕日で、オレンジ色に染められて。ぱちぱちと瞬きするわたしに、彼は近づいて足を止めた。
「本命はノアさんなのに、椿のことも手玉にとってるみたいだけど。
……あのふたり、だいぶタイプ違うよね」
「手玉に、とってる、って……」
「あれ、違うの?
椿、普段は彼氏持ちの女の子はことわってんだけど。自分から望んで、きみに遊ばれに行ってるんだと思ってたよ」