【新装版】BAD BOYS
それを聞いて一番に浮かんだのは、椿のことだった。
だってこの人は紛れもなく、自分で「反対組織」だと言ったのだ。椿と仲良くしているその理由が、どう考えても良い方には感じられない。
椿に傷ついてほしくない、と。
ただその気持ちの方が、強かった。
「反対、組織……?」
「そう。……まあ、なにも『花舞ゆ』に限定したことじゃないけどね。
俺らの敵は、いわゆる"不良"。その代表格が『花舞ゆ』だから、手っ取り早く潰したいなって」
「潰す、って、あれは形式を継いでるだけで、」
「だから、それが不愉快なんだよ。
意味も成さないのにそんな伝統だけ引き継いで、世間から一目置かれてる」
俺らのことは蔑むくせにね、と。
彼がそう言ったような気がしたけれど、音にならない声はわたしに届くことはなく。後味の悪さだけが、苦く残る。
「椿のこと……利用してるの?」
「……そんなまさか。
あいつのことは普通に良いヤツだと思ってるし、それ以上も以下もないよ。俺がこっちの組織の人間だって知ったら、壊れるかもしんないけど」
「……そ、う」
ほっとした、とは、言えないけど。
とにかく、利用するために近づいているわけじゃないのなら、よかった。──あの日、わたしが離れることを告げた、あの雨の日。
誰よりも、椿は傷ついた顔をしてたから。
……あんな顔、もう二度と、させたくない。
本当は、すごく安心したの。
"デート"中に椿が見せてくれた笑顔は、何一つ嘘じゃなかったから。──あの日みたいな傷ついた顔は、一度もしていなかったから。
「ちらっと聞いたんだけど、きみって『花舞ゆ』のことを捨てたらしいじゃん。
……なら、こっちおいでよ。たぶん、すごく歓迎されるだろうから」