【新装版】BAD BOYS
「椿、わたし……、」
俺を見上げた彼女。
背中に回されていた腕が首裏へと移動して、必然的に距離が縮まる。触れ合いを求めてきたのは彼女の方で、きっと、いつもの俺ならばかみたいに浮かれる。
でも、今は……だめだ。
「……はなび」
触れる寸前に、彼女のくちびるを手のひらで覆う。
じわりと瞳に滲む涙。泣きそうなくらい、人肌恋しいのも、さみしいのも、わかってる。不器用なはなびは、甘えられないから。
「俺で一時的に傷癒したって、意味ねえよ」
俺にぬくもりを求めて触れ合ったって、結局はなびが傷つくだけだ。
弱さにつけ込んでそうなることを、俺だって望まないわけじゃない。出来ることならそのまま全て奪ってやりたいとは、思うけど。
それでも今はダメだ。
傷ついてるはなびの前に、男女関係だとかそういうことは持ち出すべきじゃない。
それは俺じゃなくて、あの人の役目。
たったひとり、はなびの彼氏であるあの人の。
「……椿、」
「俺は確かに色々遊んでるけど。
……利用されんのは嫌いだって、知ってるだろ」
「っ、」
彼女自身を好きなことと、俺の価値観は比例しないと思う。
だって身を寄せ合って、好きな女とふたりきり。誰にも邪魔されないこの空間にいたって、今は何の感情もわかない。
わくとすれば、はなびを泣かせたあの人への……
蒸発しない、腹立たしさだけ。