【新装版】BAD BOYS



突き放すように冷たいわたしの言葉も、「だろうな」と一言で済ませる椿。

会うことを拒んだ上に、この街に戻ってきているわたしが『花舞ゆ』に顔を出さないのだから、もどる気がないことくらい容易に想像がつくはず。



なのにどうして、会いに来てまで、言わせるんだろう。

ノアを選んだことにはまったく後悔していない。それは事実だけど、彼らを突き放す言葉を、決して無心で言ってるわけじゃない。



「おねがいだから、関わろうとしないで」



「……随分と勝手だな」



「そうよ。自分勝手な理由で、わたしは『花舞ゆ』を裏切った。

それが事実だってわかってるなら、わたしを連れ戻そうとする理由もないはずだけど?」



「裏切られたとは誰も思ってない」



くっと、眉間にシワが寄る。

裏切られたとは思ってないなんて、とんだ綺麗事だ。どうしてそんなことが言えるんだろう。わたしは。……わたしは、ノアを選んだのに。




「……わかった。

そんなに頑なにもどらないって言うなら、それでいい。ただし、一瞬でもはなびが"もどりたい"って思ったら、そのときは強引にでも連れ戻す」



本格的に顔を出すようになったのは中学生になってからだけど、小学生の高学年の頃にはもう、みんなと面識があって。

『花舞ゆ』を通じて知りあった椿ですら、当時で4年くらいの付き合いだった。……なのに、わたしはその年月のすべてを捨てて、1年も満たずに恋した彼を選んだ。



たった一人の男に狂わされた、どうしようもないヒロイン。

悲劇を演じるつもりはないけれど、悪役になれる自信はある。



「それって自己申告でしょう?

なら、わたしがそう思っても言わない可能性くらい、いくらでもあるじゃない」



「それでいいんだよ。

お前の口から直接『もどりたい』って言葉を聞くまでは連れ戻さない。……それならいいだろ」



何の根拠もないのに、自信げな椿。

でもまあここで下手に拒むよりも、「そうね」と受けておいたほうがわたしにとっては得だ。



彼は万が一、の可能性を提示しているだけ。

都合の悪い方を保証してもらえるほうが良いに決まってる。その可能性が起こるまでは連れ戻さないと、椿は言い切ってくれたわけだし。



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