【新装版】BAD BOYS
第3章 夢にまで見たはずの夢
・eleven
・
何を望んでたのって、そんなの、聞かれたってわからないけれど。
ただ一言、自分勝手でわたしに都合の良いように物事が進めば良いのに、って。そんな浅ましいことを考えたのは、事実だった。
「お待たせ。遅くなってごめんね」
「ううん、全然。まだ時間より早いよ。
そのワンピース新しく買ったの?かわいいね」
──土曜日。午前10時、駅前。
周囲の女性の視線を独り占めしていた彼に、深呼吸してから駆け寄る。そうすればふわりと微笑んで、会うなりわたしのコーディネートを褒めてくれた。
「ありがと」
「でも、惜しいな。
会うなり抱きついてきてくれるのを期待してたのに」
「……そんなことしません」
敬語で拒んだわたしに、くすくすと楽しげに笑うノア。
それから自然な動きで指を絡ませてくれて、「行こう」と手を引く。椿とはまたちがう、慣れたエスコート。
だけどそれに、何の嫌味もない。
もちろん椿のエスコートに嫌味があるわけじゃなくて、なんというか、慣れてる気がするのに、それを匂わせないから。
「ちょっと待って、ノア。
わたし定期にお金のチャージしなきゃ、」
「ああ、いいよ。はいこれ」
「え、」
改札の前で差し出されたのは切符で、驚く間もなく「後ろ詰まるよ」という声に促され、渡された切符で改札を抜ける。
ホームを進んで邪魔にならないところまで行ってから彼を振り返り、「ノア」と呼んだ。
それだけでわたしの言いたいことを汲んだらしい彼は、「今日は財布出させないからね」と一言。
……だめだ。この人、わたしを甘やかしすぎてる。