【新装版】BAD BOYS
「……綺麗」
「水族館なんて、あんまり来ないよね。
……確かに綺麗だし、デートに人気なのもわかるけど」
約束していた水族館。
入口でチケットを買うどころか、まさかのすでに入手済み。そこまで計画されているのを見て、やっぱりノアはノアね、と思ってしまった。
おかげで財布を出す機会もなく、中に入ってみれば。
薄暗くつくられたその場所は、大人でも子どもでも楽しめる幻想的な空間になっていた。
青い照明の当たった、クラゲの浮かぶ水槽。
思わずその綺麗さに足を止めると、ノアがすぐに気づいて立ち止まってくれる。同年代の女の子たちのように写真を撮るでもなく、ただじっと、揺蕩うクラゲを見つめるだけ。
「……はなびって、クラゲみたいだよね」
何をするわけでもなく見入るわたしの耳に、なぜか突然嫌味っぽく聞こえるノアの言葉。
思わず眉間を寄せるわたしとは裏腹に、どうやら真剣に言っているらしかった。……クラゲみたいって言われても。
「こうやってさ、ただふわふわ浮かんでて……
すごく綺麗なのに、触れたら危険でしょ?」
「……ねえ、嫌味よね?それ」
「ううん。無防備に見える生き物の方が、案外危険だったりするよねって思っただけ。
俺としては、そうやって内側に危険なものを抱えてくれる方が、ほかの男を寄せなくて助かるけど」
「……抱えてなくたってほかの男なんか寄せないわよ」
そもそも。女友だちとあそびにいく、と誤魔化したのに首裏に鮮やかな所有印を残しておいて、よく言えたものだ。
……まあ、実際は椿とデートしてたんだから、わたしも言えたものじゃないのかもしれないけど。
「でも、そうやって……
危険だってわかってる方が燃える面倒なタイプも、いるからね」
空いている方のノアの手が伸びてきて、唐突にわたしの顎を掬う。
詰められた距離に慌ててまわりを見るも、そのタイミングを狙ったように誰もいない。抵抗よりも、触れてしまう方が圧倒的に早かった。