【新装版】BAD BOYS
もう、どっちだって、構わない。
絡んだ指先が密に隙間をなくして、人のいないその空間で、ただノアだけを見つめる。声にはしなかったけれど「よくできました」とくちびるを動かしたノアが、今度こそわたしとくちびるを重ねた。
静かで、幻想的で。
そんな空間に、ノアとふたりきり。
「も、っと」
何度も触れて、離れようとしたノアにそう強請る。
自分でもどうやって出したのかわからないほど甘い声に目を細めたノアは、わたしをなだめるように髪を撫でて、離れた。
「人、来るよ」
こそっと。
ノアがそう言った途端、すぐそばに人の気配を感じた。それにハッとして、わずか数分前の自分の行動に恥ずかしくなる。
だめだって思ってたはずなのに、自分から甘えて、しかも「もっと」って何それ。
……独り占めしたい気持ちが、全部出てしまってる。
「も、もう。次行こう」
「はいはい」
防犯カメラとかあって、ばっちり見られてたらどうしよう。
誰もこないって油断してたけど、ノアの甘さに浸るとすぐに自分の脳内が考えることをやめてしまうから怖い。侵食されて、中毒みたいだ。
「わぁ……ねえノア、巨大水槽だって」
「うん」
つんつんと彼の手を引いて、露骨にアピールしながら水槽を見上げる。
天井まで続く巨大水槽はどうやら、この1階と、そこにある階段を上がった2階の両方で見ることができるようになっているらしい。
2階に行こうとおもむろに彼の手を引いて、階段を上がる。
そばに寄ってくる色とりどりの魚に、心なしかテンションが上がってしまったらしい。ノア、と呼ぼうとして、彼が優しい目でわたしを見ていることに今更気づいた。