【新装版】BAD BOYS
紫月、と言われて浮かぶのはあの憎たらしい男。
思わず「ああ、うん」なんて微妙な返事をしてしまった。『Bell』にいるんだから知り合いなのは知ってたけど、ノアから聞くと不思議な感じだ。
「随分はなびに嫌われてるって言ってたけど、」
「……それはお互い様だと思うの」
「でも仲が良いってことはなんとなくわかるよ。
……紫月、悪いヤツじゃないでしょ?」
悪い人ではないんだろうな、と思いながらも眉間を寄せてしまうのは、彼から聞いた"パンドラの箱"の話が未だに引っかかっているからだ。
彼はわたしにこっち側へおいで、と言っていた。そっちにいこうとは、絶対思わないけど。
「ああでも、平気で甘い言葉吐いちゃうホストなんかに引っ掛かっちゃだめだよ?お嬢さん」
「あら、もう手遅れね。どうしよう」
グレーのかかった瞳を真っ直ぐに見つめると、彼はくすくす笑って「そうだったね」なんて口にする。
付き合った時はまだ学生だったから、別にホストになったノアに惹かれた訳じゃないんだけど。
「……はやく、」
「ん?」
「はやく、大人になりたい」
大人になったら、今できないはずのことが少しできるようになるかもしれない。
そんな淡い幻想だったとしても。それでも、そうなりたいと願わずにはいられないから。
「……そうだね」
ノアの表情が、ほんのわずかに翳る。
それに気づいたけれど何も知らないフリをして、「お会計済ませちゃおう?」と彼の意識を強引にこの話から逸らした。