【新装版】BAD BOYS
「ん? どした?」
「……ううん。なんでもない」
ふるふると首を横に振った彼女。
そっか、と短く返して、はなびの腕をつかんだままだったことに気づいた。はなびが今言いたかったのはこれかもしれない、と思いながら。
どうしようか迷った末に、そっと彼女の手に触れてみる。
ぴくっとはなびの肩が揺れたけど、嫌がられることはなくて。そのまま握ったら、はなびはただ俺をちらっと見ただけ。
「……何か言いたいことでも?」
「……やっぱり慣れてる」
はなびが俺の脈のはやさを知ったら、おどろきそうだなと薄ら思う。
それぐらい、俺が女慣れしてるって、思ってるだろうから。……たしかに、経験はあるけど。
「……俺だって緊張ぐらいするよ」
「嘘ばっかり」
浮かれそうなのを、これでも必死に抑えてんだよ。
「仕返し」だろうとなんだろうと、わざわざ学校まで来てくれて。一緒に出かける相手に、俺を選んでくれて。手つないでみても、嫌がらない。
「……ほんとに緊張するって」
脈がまた、はやさを増す。
落とした声はそれとは裏腹に落ち着いて、いまなら言えるなと頭の片隅で考えた時には、もう。
「俺だって……
好きな子と手つなぐときくらいは、緊張する」
──しっかりと、言葉になっていた。