【新装版】BAD BOYS



期待、しそうになる。

はなびが俺のこと好きなんじゃないか、って。そんなことあるわけねえし、実際はなびは今、彼氏のことを相談するために奥にいるのに。



「……ああ、も、」



勘弁して、と。両手で顔を覆っていれば、かたんと音がして「なにしてるの椿」と冷たい一言。

誰のせいだと、と言いたくなる気持ちをぐっと堪えて「おかえり」と言えば、「ただいま」と笑ってくれるのを指の隙間から見る。



……だめだ。

何をしてるわけでもねえのに、はなびがかわいい。



……キスしたい。とか。思っちゃうんだよなぁ。

女の子といくら遊んでも、そんな感情的に何かを(たぎ)らせられることはなかった。なのにいま、めちゃくちゃはなびに触れたい。



「……キスしていい?」



わざと言葉にしてしまえば、俺の告白を思い出したようで。

一瞬かちりと表情を固くしたはなびは、ふるふると首を横に振った。




……むりやりは、やっぱ、だめだよなー。

いくら好きでも、はなびを泣かせるわけにはいかねえし。「話終わったの?」とわざとらしく話を変えた俺に、はなびはあからさまにほっとしていた。



「うん、おわった。

……このあとどうする? 決めてないけど」



「あー……たまり場行く?」



「んー、一昨日行ったところだし、今日はいい。

天気いいし、ちょっと散歩しない?」



「いーよ。じゃあ行こうか」



そんなに残っていなかったアイスティーを飲み干すと、彼女が同じものを飲み終えるのを見て席を立つ。

俺が払うよって言ったのに、「この間デートでランチ代も払ってくれたお礼」って言われたら断りきれなくて。



俺が奢ってもらうという、絵面としてはよろしくない感じになってしまったけど。

お礼を言って彼女の髪を撫でると、はなびの友だちに気づかれることなく店を出て。──再び触れた手を、はなびはやっぱり拒まなかった。



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