【新装版】BAD BOYS
『あ、もしもし、椿?』
「ん、どした?」
自室を突っ切ってベランダに出ると、生ぬるい風が吹いて、湿っぽい。
夏に近づいて気温も上がってきているせいで、最近じゃすこし歩いただけで汗をかくぐらいには暑いし。
『え、っと、いま、平気?』
「大丈夫だけど、」
どした?と。
もう一度話を促したのに、なぜか黙り込んでしまうはなび。言いづらいことなら催促しない方が良いのかと、外の景色を眺めながら返事を待つ。
あのね、と。
小さくつぶやいた、彼女は。
『や、えっと、その……
なんか……声、聴きたくなっちゃって、』
いとも簡単に、俺の体温を上げる。
ごくりと音もなく喉仏が上下する。「あのさ」と呆れながら出したはずの声は、自分でも否定しようがないほどに甘かった。
「……俺が今日告ったの忘れてねえよな?」
『わ、わかってる。
だから、わたしも悩んだけど……、でも、』
声聴きたかったの、と。
告げる彼女がもし目の前にいたら、間違いなくキスしてた。そんな浮かれさせるようなことばかり言うから、俺だって。
「……、会いたくなるだろ」
甘さに侵された言葉しか、言えなくなる。