【新装版】BAD BOYS
「……いねーのか。
ったく仕方ねーな。カラオケ行くぞ、椿」
「……帰るから」
「そう言ってここまで来たのは誰だっての」
付き合えよと無理やり連行されて、途中で逆らう事をあきらめてついていく。
どうせこうなったら、何を言っても芹は俺のことを解放してくれないだろうし。
……短気な芹が数日なにも言わずにいてくれただけでも、十分優しさだってことは知ってるけど。
今はまだ、それにお礼を言えるほどの余裕がない。
「俺適当に聴いてるから、勝手に歌っていーよ」
部屋が空いていたようで、広い部屋に通してもらえてラッキーだなと思いつつ。
行儀悪くもソファに寝転んでそう言い放つ俺に、「おい椿」と声をかけてくる芹。マイク通すなようるさいな。ただでさえ地声デカいのに。
「おいこら椿」
「………」
「また無視かよ。ったく、なんで俺がわざわざカラオケ選んでやったと思ってんだ」
「……自分が行きたかっただけじゃん」
「それもあるけどな!
カラオケなら、まわりの声気になんねーだろ。……ったくお前、溜め込みすぎなんだよ。俺が聞いてやるから、全部吐き出せ」
……芹なりの気遣い、だけど。
そう気を遣われたって、俺が自分で一方的に思い詰めてる分もあって、正直「はいそうですか」と話す気にはなれないし。
グラスの中の炭酸が、ぱちぱちと弾けるのを見つめながら。
「芹さ」と切り出した声は、流れるBGMでかき消されそうなほど小さかった。