【新装版】BAD BOYS
「穂、ちゃんと周り見て」
ふっと息を落として、端に寄って女の子の目線に合わせてしゃがみ込み、「痛くなかった?」と尋ねれば。
こくこくとうなずく彼女に、穂が申し訳なさそうに「ごめんね」と謝った。
ふわりと柔らかそうな髪。
揺れる瞳は吸い込まれそうなほど澄んだ、不思議な色をしていて。……この子、どこか、で。
「のい!」
見たことあるような、と。
俺が頭の中で逡巡しているうちに、女の子の母親だろう女性が慌てたようにこちらに寄ってきて、ぺこりと頭を下げた。
「ごめんなさい、ちょっと目を離した隙に……
怪我、なかったですか?」
女の子に伸ばされた左手の薬指には綺麗な指輪。
キャリアウーマンって感じの、仕事ができそうなママさんだな、と。どうでもいいことを考えつつ、「大丈夫です」と答えながら穂に視線を向ける。
当然抱きとめたおかげで、ぶつかってねえし大丈夫だったんだけど。
「穂しっかりしなよね」と歩み寄ってきた3人のお咎めの視線に、穂はしゅんと目尻を下げて謝っていた。
「のいちゃん、だっけ?
あぶないから、ちゃんとママと手繋いでお利口にしてような」
「はぁい」
甘い返事に、思わずくすりと笑う。
本当にすみません、と謝るママさんに「いいえ」と微笑みかけて、もう一度幼い彼女を見る。すみれよりひとつ下くらい、か。
不思議そうに俺をじっと見つめていた綺麗な瞳が、ふと俺の後ろをとらえて。
それから「ぱぱ!」と彼女が呼んだのを、ごく自然に、何の違和感もなく、振り返った俺は。
「は……?」
めずらしくカラコンをしていないブラウンのままの瞳を、見張った。