【新装版】BAD BOYS
「……ノアさん?」
……あ、違う。
目を見張ってるのは俺だけじゃない。ほかのヤツらも。めずらしく普段は冷静な染までもが、この状況をつかめていなかった。
だって今、この子は間違いなく彼を見て、「パパ」と呼んだ。
この子に見覚えがある、と一瞬思ったけど、そうじゃない。見覚えがあるのはその瞳の色で、薄くグレーのかかるその不思議な色は。
「ぱぱっ」
のいちゃんがぎゅうっと抱きつくその相手と、同じ瞳の色。
──俺がこの世でおそらく一番嫌いな彼と、同じ。
「ごめん、遅くなって。
……どしたの椿たち、こんなとこで。5人揃って一緒にいるなんてめずらしいじゃん」
そんな俺らの疑問に、気づいているくせに。
彼はごく自然に甘えるようにすり寄った彼女を抱き上げ、俺らにようやく視線を向ける。
伊達なのか本物なのか、黒ぶちメガネの奥の瞳は、やっぱり同じ薄いグレーのもので。
「ノアの知り合いだったの?」と、不思議そうな顔をした彼女を見て、ハッとした。
それからもう一度彼に視線を向けて。
「どういう、ことですか」
ふつふつと。言いようのない怒りが、湧き上がる。
まさか、と思ったんだ。彼女が指輪をしていたことを思い出して、そんなまさか、と。──だけど。確認した彼の左手薬指には、指輪があった。
永遠の愛を誓うその場所に。
彼女とまったく同じ指輪が、嵌められていた。
「はなびのことは遊びですか?」
冷ややかな声で問う俺を誰も止めないのは、きっと全員が同じことを思っているから。
去年まで高校生だったはずの彼に娘がいる、という件はさておきだ。俺の、と散々はなびを独占してきたはずの彼が、彼女と同じ指輪をしているワケ。