【新装版】BAD BOYS
ビクッと、大袈裟に肩が揺れた。
背後から聞こえた声。聞き間違えるはずなんてない。──誰よりも愛しい女の子の、声。
このまま修羅場になってしまえばいいんじゃないかと。
そんなふざけたことを思いながら、意を決して振り返ればそこにいるのはやっぱりはなびで。
「電話気づかなかった?
わたしも、先に車に荷物乗せておきたかったから、連絡したんだけど」
俺らを、ほんのわずかに一瞥しただけで。
彼女は幼い子どもを抱く彼に駆け寄って、自然と会話を続ける。
まるで、何もなかったみたいに。
──俺らの存在なんか、見えていないみたいに。
「え、電話した? ごめん気づかなかった。
車にその荷物乗せるなら付き合うよ。それか預かろうか?」
なんで、と。
声にならないほど掠れていた声でつぶやいたそれには、色々な意味がふくまれていた。
何か言いたげだったけど俺らのことを無視した、っていうのは。
もう関わりたくない意思表示の表れだろうから。だから、それはまだ、納得できる。
自分を納得させれば、納得できるけど。
「ううん、一緒に行くわ。
あ、でも千秋さんひとりにのいちゃんをずっとお任せするの悪いじゃない。キー貸してくれたら、ひとりで置きに行ってくるわよ?」
「だめ。ほら、のいは千秋と一緒にいて。
はなび、さっさと荷物乗せてもどってこよう。のいの新しいおもちゃ、一緒に買い物するんでしょ?」
「はなちゃん、はやくー」
まるでそれが、当たり前みたいに。
むしろ俺の価値観が間違っているんじゃないかと、そんな錯覚を起こしそうになる。
どうして。
はなびは平然と、一緒にいるんだよ。