【新装版】BAD BOYS
ふと思い出すのは、前に。
俺が熱を出してこの人に家まで送ってもらったあの日の、車の中での会話。──はなびはもう、全部知っている、と。
そう告げた、彼の言葉を思い出す。
それはつまり。自分が既婚者であり娘もいることを知った上で。自分が浮気相手なんだと、理解した上で。
それでもそばにいる、という意味だったとしたら。
……どう考えたって、そんなの、敵うわけない。
「うん。早く済ませてくるから、待っててね」
「あとで、ぱふぇたべよう?」
「ふふっ、そうね」
自らを犠牲にして、それでも一途に思い続けると。
はなびがそう決めたのなら、俺が何を言ったところでその感情に勝ち目はない。
浮気なんてよくないからやめな、って。
そんなありきたりなことを言ったところではなびが手を引くわけがない、と。良くも悪くも彼女のそばにいた俺は、痛いくらいに知っていた。
「千秋、のいと先におもちゃ屋さん入ってて。
俺らも車に荷物乗せたら、すぐもどってくるから」
「あ、うん。……じゃあ、先に行ってるわね」
どこか気まずそうな、表情で。
ぺこりと俺らに会釈した彼女は、娘の手を引いて先に歩いていく。その背中が人ごみに紛れたのを見て、彼は俺と視線を合わせた。
「1ヶ月ぐらい前に。
やけに俺のかわいいおひめさまが張り切ってお洒落してデート行ったんだけど。……あのときのデートの相手って、椿でしょ?」
「、」
「前日からお前らの中の誰かだろうな、とは思って、結局知らないふりしてあげてたけど。
……わざと、あの日はなびにマーキングしといたんだよね」