【新装版】BAD BOYS
結婚という言葉で思い出すのは、この間会ったあの女の人のこと。
彼女がノア先輩と結婚している、としか思えなかった。一瞬姉かとも思ったけど、それなら同じ指輪をしているのはおかしい。……それに。
のい、と呼ばれていたあの女の子。
彼女は間違いなく、先輩のことを「パパ」と呼んだ。
「ぼくね、染ちゃんか芹ちゃんか、つーちゃんか……
その3人の中の誰かと、はなちゃんが付き合ってくれたらいいのになあって思ってたんだけど」
蝉の合唱が重なり合って、ひとつの音みたいに聞こえる。
空気が、温度が。雰囲気が。すべてが夏だ。
「はなちゃんがいちばん自分らしい顔を見せてくれるのは、つーちゃんといるときじゃないかなぁ。
……昔からね、ぼくらの間で『はなびと椿が話しているときだけ空気が違う』って言われてたんだけど、知ってた?」
「……なにそれ」
「ほら、つーちゃんって。
最近はぼくらの前でも結構素でいてくれてるけど、はなちゃんの前ではずっと素でしょ?」
……言われて、みれば。
確かに最近、俺はそこまで口調にこだわってない。正しくははなびのことで頭がいっぱいで、そんなことにまで気が回らなかった。
「つーちゃんが、すごく気をゆるしてて。
はなちゃんもそれに対して、自然に話してるんだけど。はなちゃんもはなちゃんで、いろいろ気をゆるしてたんだと思う」
「………」
「ぼくの知ってる、はなちゃんは。
……つーちゃんといるときに一番、たのしそうに笑ってるよ」
「……俺のこと調子に乗せたい?」
「ふふっ、ちょっとぐらい乗ってもいいんじゃないかな。
そんなつーちゃんとなら、はなちゃんは幸せになれるんじゃないかっていうのが、ぼくの勝手な予想。……あと、願望、かな」
くすっといつもより大人びて笑った穂が、「結構歩いたねー」と一足先にアイスクリームショップへと入っていく。
「涼しい!」と分かりきったことを言う穂にふっと笑って、「恥ずかしいから人前ではしゃぐなよ」とそれを追った。