【新装版】BAD BOYS



はなびが言ったのは、カフェから結構歩いた場所にある山の傾斜の途中につくられた広いスペース。

柵もついてるし、海の眺めも良いし。何なら木陰にベンチもあるし、ぴったりな簡易的展望スペース。



時間を見れば、カフェから30分ほどかけて歩いてきたらしかった。

18時過ぎにはここを離れて海の方にもどるとしても、2時間半ほどの話す余裕がある。十分過ぎるな。



「……ノアの、ことなんだけど」



ベンチに腰掛けて、はなびが話を切り出す。

隣に座ったから横を向かないとはなびとは目が合わないけど。いまはお互いにその方が良い。



はなびがこっちを見ないから、

俺も目を合わせることなく「うん」と相槌を打った。



「……まず、千秋さんと、のいちゃんのこと。

たぶん椿は、ふたりがノアの奥さんと娘だと思ってるだろうけど、そうじゃなくて」



そうじゃない。

それならほかの可能性は、と。すでに何度も思案したことを再度頭の中で考えてはみるけれど、結論は出なかった。




「千秋さんは、ノアのお兄さんの奥さんで。

のいちゃんは、そのお兄さんと千秋さんの間に生まれた娘なの」



「……でも、結婚指輪してただろ。

それに、あの子先輩のこと「パパ」って呼んでたし」



「うん。のいちゃんは、自分の父親がノアじゃないこと知らないんだもの。

……生まれた時からずっと一緒にいたノアを父親だと思うのは当然じゃない」



……父親が別にいることを知らない?



「ノアのお兄さん……

千秋さんのお腹の中にのいちゃんがいて。まだ生まれてもない時に、交通事故で亡くなったの」



嫌に、空気が(よど)む。

変な汗が浮かぶのは、その言葉ひとつで状況の重さが並大抵じゃないことに気づいたからだった。



「ノアが嵌めてる指輪は、そのお兄さんのもので。

……千秋さんとのいちゃんを守っていくって、誓った証拠」



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