【新装版】BAD BOYS
この話を俺が聞いてもいいのかは、わからなかった。
だけどはなびが話してくれるってことは、あの人が俺に話すことを許したんだろう。
「千秋さんは、両親がいないの。
幼い頃からずっと祖父母に育てられてきて、お祖父さんは先に歳で亡くなって。お祖母さんは元気だったんだけど、4年前に病気で寿命が長くないことを知って、」
それを知った彼氏、つまりノア先輩のお兄さんは、彼女に早々にプロポーズした。
幸いにもふたりとも大学を出てすでに就職していたから、お互いに結婚に踏み切るのに、大きな覚悟をする必要もなかった。──だけど。
「ノアの家は、母子家庭で。
ノアのお母さんは、両親のいない千秋さんとの結婚を、断固反対してた」
「でも、結婚したんだろ?」
「……押し切って、ね。
結婚して間もない頃に、千秋さんはのいちゃんを妊娠して。……それから少しして、千秋さんのお祖母さんは亡くなった」
その頃はまだ、先輩のお兄さんは当然元気で。
3人で、幸せに暮らしていた。──その事故が、起きるまでは。
「事故に遭って……お兄さんが、亡くなった時。
千秋さんは相当困ったの。自分には両親もいないし、特に親戚もいない。ノアの母親には結婚を押し切ったわけだから、当然仲が良いわけなくて」
「……うん」
「唯一頼れたのは、まだ高校生だったノアなの。
ノアはお兄さんと仲が良くて家にも顔を出してたから、千秋さんとも仲が良かった」
彼女は、彼にとある頼みごとをした。
保育園に預けるお金の余裕がない。自分でお金を稼ぐから、その時間だけは生まれてまだ間もない娘の面倒を、見て欲しいと。
「……千秋さんはノアが1日面倒を見てくれる土日に重点的に働いて、平日は夜に仕事してた。
詳しくは言わないけど、ネオン街にある店よ」
聞けば聞くほど、話は重くなる。
あの人はいつだって飄々としているように見えたけど。……そう、見えていただけだった。
「そんな中で、ノアに告白したのがわたしで」