【新装版】BAD BOYS
「……みやの前で感情整理できなくて、俺とっさに『好きだったの?』って余計なこと聞いたんだよね。
そしたらみやは違うって否定したけど、」
「………」
「……いや、
あんな顔で言われても、むり、あるでしょ」
みやは嘘つけないんだよって珠紀が呟いた声を最後に、シンと静まる家の中。
今日はクレヨンではなく色鉛筆を使っているらしいすみれちゃんがスケッチブックにそれを走らせる音だけが、不規則に沈黙を破る。
「どうして……わたし、だったの?」
「、」
珠紀のそばに女の子はあまりいないから、恋愛相談としてはわたしが正解なのかもしれないけど。
その話を聞いた限り、適任なのはわたしじゃなくて椿だと思う。
原因であるわたしが言うのもなんだけど、そういう状況に板ばさみにされていることが多いのは椿の方だ。
わたしはどちらかといえば、珠紀に対してのみやちゃんと、同じポジションにいるのに。
「……普段あれだけ文句言ってるのに、こういう時だけ椿に頼るなんてずるいでしょっていう俺の個人的なプライド。
それに、椿と俺はまた別だから」
はあっと息を吐いた珠紀が、「抱きしめて良い?」とわたしに尋ねる。
恋情も何も一切起こらない、わたしを抱きしめる理由。それにもまた、恋情なんてものは微塵も存在しなくて。
「……慰めるとか一緒にどうするか悩んでくれるとか、そういうの今はいらなくて。
話聞いて、こうやって抱きしめて欲しかっただけ」
わたしの肩に額をつけた珠紀の、ネイビーブラックの髪を優しく撫でる。
抱きしめて欲しかったんだとしたら、確かにわたしじゃなきゃいけないと思う。
「わたしと珠紀は特別だものね」
お互いに、男女であることは理解してるのに。
どうしようもないくらい下心の湧かない関係で、強いて言うなら、とても無機質。