【新装版】BAD BOYS
正直あの時は、椿のことを引き止めなきゃ、っていう気持ちが大きくて。
誤解されたくない気持ちが勝って、一生懸命だったのだけれど。
……そろそろわたしの感情の移り変わりに気づいても良いと思うんですよ、椿さん。
本気でなんとも思ってなかったら、あんなに号泣して引き止めたりなんてしないわよ。
「ごめん、付き合ってられないとか思ってない。
……あーもう、ごめんって。好きだよ」
『───』
「俺が面倒なこと嫌いなの知ってるでしょ。
好きでもない子と付き合わないし、ましてやリングなんか渡さないから。……泣き止んで、みや」
……たとえ普段どれだけ珠紀が魔王様気質だろうと、彼だって好きな子には弱い。
今の珠紀のとびっきり甘い「好きだよ」の声を芹や穂が聴いたら、一生ネタにされることだろう。
みやちゃんは気づいてないかもしれないけど、これでも珠紀は相当彼女にベタ惚れだ。
この間たまり場に来てくれた彼女に抱きついたわたしに、誰にも聞こえないレベルの声で「俺のなのに」って呟いていたこともわたしは知ってる。
「……言ったでしょ、離さないって」
そんな甘すぎる言葉でようやく彼女は泣き止んでくれたようで、珠紀がふっと笑みを浮かべる。
愛おしそうな視線の先は嵌められたペアリング。
……見てるほうが恥ずかしくなりそうなんですけど。
「あとで、迎えに行くから。
ああ、そうだ。今日は両親にちゃんと『泊まり』って言っといてよ?」
……うん、もうこの人絶対開き直ってる。
わたしの前で「好きだよ」って言っちゃったから、もう何を聞かれても恥ずかしくないのか、思いっきり口説いてる。聞いてるわたしの方が恥ずかしい。
「じゃあね。またあとで」
ようやく糖度の高い電話を終えてくれた珠紀は、にこっと笑顔で「はなび」とわたしを呼ぶ。
何かと、ちらっと顔を上げて視線を交わらせれば。