【新装版】BAD BOYS



……正直に、言うと。

ノアを引きずる気持ちなんて、ほとんどない。



今はノアのことを考えるより、椿のことを考える時間の方が圧倒的に多い。

芹からも彼のことを勧められたのもそうだけれど、まわりに隠すことなく大事だと言ってくれる椿に、随分と惹かれてる。



少しずつ、少しずつ。

好きだと思ってしまっている自分がいる。



「……、怖い、のよ」



椿の「本命」が羨ましい、って形に感情が変わっていくのを、どうすることもできなかった。

夏に一緒に花火に行こうと誘われた時。それだけでいいの?とそんな欲張りを口に出しかけた時には、もう随分と、椿でいっぱいだった。



ノアが好きだと口にしていたのは、自分の気持ちが揺らいでることを認めたくなかったから。

椿に本命がいることを知って、傷つくのが怖かったから。



どっちみち、その本命はわたしだったけれど。

告白されたときに、本当は、とても嬉しかった。




「奪っていい?」って甘く意地悪な言葉に、本当に奪われたかったのは滑稽なわたし。

ノアとデートして、それでも彼のそばにいるのはわたしじゃなきゃいけないかもしれないと、実感させられたあと。



わたしの元に来てくれた椿にキスを迫ったのだって。

一度事故が起これば気が済んで、今度は揺らぐこともせずにノアだけ見れるんじゃないかって。



ぜんぶ、甘えてばかりのわたしが起こした行動だった。

……それでも、言えなかったことがある。



「ノアのときは……

好きって気持ちが勝って、『花舞ゆ』を捨てることすらできたのに、」



認めそうになって、でもそれじゃあ欲張りになるからと、何度も何度も気づいては封じ込めた気持ちがある。

好きになると思うなんて、とっくに嘘だった。



「……今度好きになったら、

また何か犠牲にするものがあるかもしれない」



「それはノア先輩が言い出したからでしょ?

椿はそんなこと言ったりしないって」



< 337 / 463 >

この作品をシェア

pagetop