【新装版】BAD BOYS
え?と。
口にしていたのは無意識で、椿は「謝ることねえじゃん」っていつものような優しさで笑う。
『泣くぐらい会いたくなって電話してきてくれたんだろ?
んなの、ひとりで我慢して泣かれるより全然いい』
「でも、旅行、」
『ちょうど今暇だったんだよ。
それに。……俺も声聴きたくて、あとで電話しようと思ってたから』
もっと俺にわがまま言って、と。
どこまでもわたしを甘やかそうとする椿。
『はー……1泊なのに長ぇな。
……俺だけ行かなきゃよかったのか』
「や、家族旅行……ちゃんと楽しんできて。
わたし、椿が帰ってくるの待ってるから」
ね?と。言えば椿は、短く返事をくれる。
明日帰ったら、すぐに会いに行くと約束してくれた。それから、すみれちゃんに呼び出されるまで彼は電話に付き合ってくれて。
「おかえりなさい」
「ただい……は!?」
「しー。
扉閉める前に大きな声出さないで」
「いや、だってその髪、」
宣言通り翌日の旅行後、夕飯を終えてからわたしの部屋に訪れた椿。
持っているおしゃれなバッグの中身は着替えだ。明日はデートでどうせ一緒にいるんだし、と、今日は椿が泊まることになった。
……どうでもいいけど、ふたりきりで夜を過ごすとなると、どうにも珠紀の発言を思い出してしまう。
まだ何も、とは言ったものの、わたしはいつ心の準備をすればいいんだろう。