【新装版】BAD BOYS
ずるい。目を見ろって強く言うのに、甘く撫でるように囁かれて。
滑稽なわたしは、ばかみたいに、すがりたくなってしまう。
「つばき……」
「ほら、はやく」
キスが、深くなる。
リビングの明かりが朧に見える薄暗い廊下の中で。静かな空間にこぼれるのは堪えきれないわたしの吐息と、椿の甘やかな誘惑。
「それとも、
俺に強引にされたいってわざと焦らしてんの?」
聞くくせに逃す気のない、絶対的支配者の顔。
芹や珠紀の「不安なんじゃないの?」なんて言葉を思い出して、心の中で嘲笑した。
この表情のどこが、不安なんだか。
わたしの反応をひとつずつ楽しんでるこの余裕げな男。たとえ本気の相手ははじめてだとしても。
「焦らして、な……っ」
遊んだ分だけ経験値は、積んである。
良くも悪くもノアしか知らないわたしが、百戦錬磨な椿に勝てるわけがない。
立っていられなくて崩れるわたしに合わせるようにして、彼が屈む。
なんの変哲もない後ろの壁が冷たく感じるほどに、全身がとてつもなく熱い。
わたしの胸元に顔をうずめてきた椿に弱々しく抵抗するように彼の髪をゆるく握ったけれど。
椿ははっと笑みを零し、「そういうの、」と顔を上げて背筋がぞくりとするほど甘く目を細める。そして。
「煽ってる、って言うんだよ」
「……っ」
胸元に走った、淡い焼けるような痛み。
薄暗くてもわかる薄ら紅いその印に、椿がたったいまそれを刻んだことを、頭は理解しているのに。