【新装版】BAD BOYS
電話がかかってくる前のことなんて、もう頭の片隅にすら置かずに。
慌てて家を出てたまり場についた頃には、『花舞ゆ』の幹部に加えてブラック側のトウカさん、シイ、ミル、マヤと、両幹部が揃っていた。
「はなび、椿」
「染は……無事、みたい、ね」
見るまでは、いくら無事だと聞いても落ち着かなかったけれど。
平然としている彼の腕にギプスがされているのと顔に傷が多少あるくらいで、それ以外はいたっていつも通りだった。
「それで、」
「うん、相手は分かったよ」
告げる珠紀の向こうで、トウカさんが深くため息をつく。
それから向けられた視線は、とても弱々しく見えた。
「男が6人、動機は個人的な恨み。
……それ以上の理由がないから、どうしようもないわね。まあ怪我させられてるのは本当だから、警察の方には引き渡したけれど」
「そう、ですか……」
どう、反応するのが正解なんだろう。
ひとまず染が無事なら、それでいいけれど。それはわたしの個人的な思考であって、みんなは?
「……はなびちゃん。
悪いけれどすこし話がしたいから、一緒に外に来てもらっても構わないかしら?」
トウカさんに名指しされて、考えることもせずに外へ出る。
彼女は薄らため息を吐いて、空の色に合わせて黒く濁ったように見える海を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。
「わたしのこと、なんだけど」
月すらも不穏に身をひそめてしまうような夜。
そこから嘘を取り除いてしまえば歪な世界はこの先どうなるのだろう、と。どうにもならないことを、綺麗な彼女の横顔を見つめながら思った。