【新装版】BAD BOYS
甘ったるい誘惑に、顔を上げる。
振り返っていたはなびと至近距離で目が合って、「なんでも?」と尋ねれば「なんでも」と返してくれる彼女。
……なんでも、ねえ。
「……限度ナシでいーの?」
「わたしに一体何をさせようとしてるの」
はあ、とため息をついたはなび。
俺が下心的なお願いをする気でいると思ってるのか、「過激じゃなければ考える」らしい。はなびの言う過激がどこまでが過激なのかは、さておき。
「……わかった。課題やる」
言えばわしゃわしゃと髪を撫でて、キスまでくれた。
正直これだけでやる気が出るんだけど、言うことをきいてくれるらしいし、ちゃんとやる。今からやれば絶対間に合うだろうし。
「キリのいいところまで終わったら、スーパー行ってお昼ご飯の食材買いに行こう?
何がいいか希望あったらそれにするけど……」
「ん。
……朝テレビでやってた夏野菜の冷製パスタ美味しそうじゃなかった?」
「ああ、美味しそうだったわね。
野菜買ってこれば出来るけどそうする?」
お互いに視線は落としたままで、会話だけがぽんぽんと飛び交う。
昼飯はさくっと決まって、そういえばはなびとはじめてデートした時のランチもパスタだったなと思い出した。
あのときは、まさかはなびが自分の彼女になるとは思ってなかったし。
『花舞ゆ』に引き戻すのに、必死だったけど。
「……そういえばわたし、あのとき椿のパスタ分けてってお願いしたじゃない?」
どうやら、はなびもあの日のことを思い出しているらしい。
うん、と返事すれば、はなびがページをめくるのに合わせて一瞬だけ俺を見た。