【新装版】BAD BOYS



「……俺は嫌いだけど」



ぽつり。

落とされた言葉を最後にどちらともなく黙り込んで、ぱらぱらと雨粒が傘に当たって弾ける音を、ただ静かに聞いていた。



「……俺らになくて、ノア先輩にあるものってなに?」



聞き落としてしまいそうなほど小さな声で。

わたしに投げかけたというよりも、自分で嚙み締めるように放たれたそれが、どうしてか喉の奥を熱くした。



『花舞ゆ』のみんなのことは、本当に好きだ。

2年離れた今も、大切な仲間だと思っているけれど。ノアのことがなければきっと、今も一緒にいたと確信できるけど。……それでも。



「……ノアが何か持ってるわけじゃなくて。

むしろ、彼が、なにも持ってないのよ」



わたしがノアのそばにいてあげなきゃいけない。

あの人は、何も持っていなくて。ノアにとってわたしは、別に必要な存在じゃない。彼に必要なものは"彼女"であって、"わたし"じゃない。




それでも、ずっと、知ってるの。

どうしても大きな企業に入って安定したいから、お金を稼ぐのも大変なのに、特待生を取ってまで一流の大学に通ってる理由。



休みを削って、ホストの仕事をしてる理由。

知ってるから。……だからわたしが、守ってあげなきゃいけない。



ノアは誰にも弱音を吐けない。

だからわたしが、抱き締めてあげるの。大丈夫だよって、彼の背中を押してあげるの。



「何も持ってないから、そばにいてあげたいのよ」



何も知らなかったあの頃のわたしとは、違う。

わたしが隣にいることで彼が生きていけるのなら、これからもずっと、一緒にいたいと思った。



『……ごめんね、はなびちゃん』



わたしよりも彼に近い場所にいる"彼女"の、謝罪の言葉が。

いまも脳裏に焼きついたままで、離れてくれない。



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