【新装版】BAD BOYS
どうやらふたりの中でこの話題は終結したらしい。
だからわたしも気にせず、ふたりの声をBGMにしながら机の上に広げた問題集を、解いていれば。
ピンポーン、と、チャイムのなる音。
電話の向こうにもそれが聞こえたようで、後腐れもなく軽い調子で電話が終わる。一瞬、静かになった部屋に寂しい気もしたけれど。
来客だとルームフォンを手にして「はい」とそれに出れば、『こんにちは、間宮です』とやわらかな声がした。
間宮は、ノアの、名字だ。そしてこの声は。
「こんにちは、千秋さん」
「ごめんねはなびちゃん、急に押し掛けちゃって。
お迎えまですこし時間があったんだけど、ちょうど近くにいたから久しく会えてないはなびちゃんの顔見たくなっちゃって」
元気にしてた?と。
今日も彼女は、優しい笑顔をわたしに向けてくれる。これお土産、と差し出されたのは、わたしの好きなスイーツショップのカスタードプリン。
お礼を言ってそれを受け取りながら、彼女を部屋へと招き入れる。
千秋さんがここに来るのは、何もはじめてじゃない。
「ノアは、元気ですか?」
「うん、元気よ。
はなびちゃんとのデートが楽しみだって頑張ってるみたい」
「っ……」
千秋さんに何もかも知られていることに、思わず顔が赤くなる。
それと同時に、"楽しみにしてくれている"ノアに対して、とても申し訳なくなった。……わたしが。
「相変わらず仲良しねえ」
わたしが、彼との約束を破ろうとしていること。
告げればきっと、悲しませるはずで。
もやもやしながら、アイスティーを淹れたグラスをふたり分、机に並べる。
ありがとうと微笑んでくれた彼女の左手の定位置には、今日も褪せることのない輝きを放つシルバーの指輪があった。