魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 トラヴィスはライトからそんなことを言われたことが意外だった。むしろ、今までそんなことを言われたことがない。あの魔導士団団長の息子がかけてくれたその言葉が嬉しかった。
 トラヴィスが魔法の練習をしていると、ときどきレインが現れた。膝を折って座って、両手を頬に当て、うっとりとした表情でこちらを見ている。そしてしばらくするとライトが迎えに来て。
「邪魔して悪かったな」
 とトラヴィスに言う。
 それから、なんとなくライトと話すようになった。そして、いつの間にか、彼が心を許せる友人になっていた。それはライトにとっても同じだったようだ。

「そんな、子供のときのこと。覚えていません」

 トラヴィスの腕の中で顔を赤くしながら、レインは必死になっている。

「それでも私は、君に救われたんだ。ライトという友人を得ることができたのも、君のおかげだ」

 レインの耳元で優しく囁くトラヴィス。

「君と家族になりたいと、そう、ずっと思っていた。今でも、そう、思っている」
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