魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「ですがっ」

 そこでレインは両手を前に突きだし、トラヴィスを突き放した。

「トラヴィス様の相手に、私はふさわしくありません」

「そんなことは、無い」

「そんなこと、あります。四年前も、今も。私はずっと子供で、トラヴィス様はずっと大人で。どうして、こんなにも生まれた時期が違うのだろうって。ずっと、ずっと思ってた」
 そこでレインは唇を噛み締める。
「私は、ただの小娘です」
 というのも、魔導士団に入団してから、ずっと言われ続けてきた言葉。ただの小娘が、なぜ団長の側にいるのだ、と。わざとらしく首をかしげる人たちもいる。
 だが、まだ魔力無限大という他の魔導士には無い力があるから、良かった。それだけが、彼女の心を守る唯一の鎧だった。それが無くなってしまった今、彼女を守ってくれるものは何もない。
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