魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「と、トラ……ヴィスさま」
 おやめください、と言いたいのにその口を塞がれているため、言えない。

 いつの間にかレインはベッドに転がされていた。

「トラヴィスさま。おばあさまが帰ってきてしまいますから」

「大丈夫。今日は、帰ってこないから」

 何でトラヴィスはそのことまで知っているのか、とレインは思った。こういった状況であるのに、頭は冷静に働いている。
 いつの間にか衣類ははぎとられ、下着姿で転がされていた。
 トラヴィスもいつの間にか上半分だけ脱いでいるし。さらに、レインの顔の横に手をついたトラヴィスの顔が迫ってきているし。
 再び、深い口づけを交わす。

「君が子供ではないこと、私が証明してあげる」
 一度離れた唇は、首元から徐々に下へ下へと狙いを定めていく。

「トラヴィスさま、これ以上は」

「レイン。ごめんね。私ももう、止められそうにない。それに、君は私を受け入れてくれないと死ぬから」

「え?」

 今、ものすごく大事なことを言われたような気がする。胸元にある彼の頭を冷静に見つめてしまう自分もいる。

「トラヴィスさま、トラヴィスさま」

 彼は何に夢中になっているのか、離れようとはしない。どうやらレインの声も耳に届いていない。こんなトラヴィスもおかしい。
 レインは枕元に置いてある小瓶を取り出した。何かあったときのために、ここには数々の薬が並べてある。それを一気に口を含む。それからトラヴィスの髪の毛を引っ張り、無理やり自分の胸元から引き離すと、今度はレインの方からトラヴィスに深く口づけた。
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