魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 実の母の薬を怪しい、と言い切ってしまうところが、さすが娘だと思った。
 しかも、解除薬まで準備していて、それを飲ませるという機転の利いた行動力。

「その、すまない。乱暴なことをして」

「いえ。お気になさらないでください。全ては、母のせいですから」
 レインは一口お茶を飲む。トラヴィスも自分を落ち着かせるために、お茶を飲む。

「それで、トラヴィス様は何のためにこちらまでいらっしゃったのですか」
 そんなこと、聞かなくてもわかっている。トラヴィスのことだから。
 でも、レインは聞かずにはいられなかった。

「レイン。君を迎えにきた。私と結婚して欲しい」

 その言葉に、レインは固まった。息をするのを忘れるくらいに、動けなくなった。
 トラヴィスが昔から自分に好意を寄せてくれていたことはわかっているつもりだ。もちろん、婚約者でもあるし。
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