魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「レイン。私と結婚して欲しい」

 トラヴィスと目が合う。じっとそれから反らすことはできない。

「……はい」
 レインはやっとの思いで、その二文字を絞り出した。

 トラヴィスは立ち上がると、彼女の顔に自分の顔を近づけ、軽くキスをする。

「なんか、恥ずかしいです」
 軽い口づけにも関わらず、なぜか恥ずかしい。先ほどまでは深くかわしていたというのに。例えそれが薬のせいだったとしても。
 それを誤魔化すように、レインは苦い薬草茶を飲む。その苦みが、ふと現実に引き戻す。

「そういえば、トラヴィス様。私の魔力枯渇の原因がわかったとおっしゃっていましたよね。何が原因なのでしょうか。それに、私がトラヴィス様を受け入れないと死んでしまうとか、そんなこともおっしゃっていたような気もするのですが」

 純粋な瞳で見つめられてしまうと、トラヴィスも答えることに少々戸惑ってしまう。
「えー、あー。そのー」
 と視線が定まらない中、そんな言葉を発していると、またレインがじとーっと見つめてくる。

「もしかして。嘘をつかれたのですか」

「嘘はついていない。君の魔力は必ず戻る」

「だったら、なぜ教えてくださらないのですか」

「いやー、あのー、それは、だね」
 相手がライトなら話せるのに、レインだと口にすることができないのはなぜだろう。

「トラヴィス様、はっきりとおっしゃってください」
 レインが向かい側から上半身を乗り出してきた。
 はっきりと言っていいものかどうなのか。こういうときに限って資料は無い。あの家から持ち出し禁止にしてあるからだ。
 トラヴィスは逃げ場を失った。
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