魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「トラヴィスさま?」

 目を逸らす彼から、レインは絶対に目を逸らさない。

「トラヴィスさまっ」

 そろそろ誤魔化すのも限界だろう。いや、誤魔化そうとしていたわけでは無い。言葉を選んでいたのだ。トラヴィスは自分にそう言い聞かせる。

「私の魔力を戻す方法とは、本当にあるんですか? ないんですか? 無いなら、トラヴィス様とは結婚いたしませんし、婚約も解消いたします」

 たまに見せつける彼女のこの勢い。何が原動力になっているのか、と思ってしまう。

「どんな現実でも受け入れてくれるか?」
 トラヴィスはついついそんなことを尋ねてしまう。
 彼女にとって、魔力枯渇が生命力の枯渇を引き起こす、という残酷な現実以外に、他にどのような現実があるのだろうか。
 それでも。
「内容にもよりますが」
 と、ちょっとだけ自信を無くすレイン。こういった正直なところも彼女らしい。

「ん-、まー、そうだね」
 と、またどうでもいい前置きをしてから、トラヴィスは決意した。でもその前に、冷めてしまった薬草茶を一気に飲み干す。冷めてしまったから、余計に苦い。その苦みが口の中に残っているうちに話をしてしまうのがいいかもしれない。何の苦みかわからないうちに。
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