魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「えっと。それは、トラヴィス様の願望ではなく?」
 ものすごい切り返しをしてきた。

「そういった願望が無いと言ったら嘘になるが」
 口の中が渇いていたので、水分を補給しようと思ったのだが、先ほどお茶を飲み干していたことに気付く。

「すまない、レイン。もう一杯、お茶をいただけないだろうか」

 こくこくと、首振り人形のように首を縦に振ってレインは立ち上がった。今度は苦くないお茶を淹れる。心を落ち着かせるような、爽やかな香り。

「えっと。それで、私がその、トラヴィス様と交われば魔力が戻ると?」
 厳密にいえば、相手はトラヴィスに限らないのだが。そこを訂正すべきか否かで悩む。だが、根が正直なトラヴィスは口にしてしまう。

「まあ、そうだな。厳密にいえば、魔力のある相手であればよいので、何も私にかぎった話ではないのだが」

 そこで一瞬、レインの顔が曇る。

「つまり、トラヴィス様は、私が他の方とそのような関係になっても構わないと、そうおっしゃるわけですか?」

「いや、けしてそういうわけではなくて、だな。その、あくまでも。その、一般的な魔力回復方法という話をしているだけで……」
< 123 / 184 >

この作品をシェア

pagetop