魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「冗談です」
 ツンと澄まして、レインはお茶を飲んだ。コトリとカップを置いた音が、異様に大きく聞こえる。

「冗談?」

「はい、冗談です」
 レインはじっとトラヴィスを見据えたまま視線を反らさない。何かの意思が宿った強い眼差し。

「君は、私の気持ちを疑っているのか?」
 恐る恐る尋ねた。

「疑いたくもなります」

「なぜ?」

「だって、トラヴィス様は。全然私に手を出してくださらないじゃないですか。深い口づけだって、あのときが初めてだったし。今日だって、催淫剤が無いと行動にもうつしてくれないし」

「いや、だから、それは」

「私が、子供だから手を出せないんですよね。そういうことですよね?」

 そういうことと言われても、どういうことだと聞きたい。それに、この流れは、レインは手を出してもらいたかったというように読み取ることもできるのだが。

「トラヴィス様の隣にいて、私がどれだけ不安で惨めだったか、わかりますか」
< 124 / 184 >

この作品をシェア

pagetop